合掌
昔から、「花」といえば“桜”を指すほど日本人は桜が大好きです。『諸行無常』の感覚に例えられることもあり、満開の時の華やかさとは対照的な散り際の儚さや潔さが日本人の心情をつき動かすからだと言われます。桜が日本精神の象徴のようなものとして扱われることもあって、国花の代表例(正式には国花は存在しませんが)として“菊”と共に国民の中では自然に受け入れられているようにも感じます。
さて、日本人にとって琴線に触れる要素でもある“潔さ”ですが、最近の政治の世界を見る限りではどこを探しても欠片すら見つけることができません。先日の国会中継をみても、首相をはじめとして議員は言うに及ばず、最高学府を出た高級官僚といわれる人たちにおいてもただただ政権側の代弁者としての答弁に終始しており、各々の主張の核心部分をぶつけ合ったうえで国民のための合意形成を図ろうという意図が全く感じられません。まさに党利党略、私利私欲にまみれた見苦しいまでの執着心と、政治家としての自らの責務を忘れているとしか言いようのない非常識な言葉遊びのような言い逃れ発言や言い訳がまかり通る“永田町の論理”とやら。一般社会では到底通用しないようなやりとりに対して怒りや呆れを通り越して空しささえ感じてしまいます。
もう一つ、日本人にとって独特の心情を表す言葉として脚光を浴びているのが“忖度(そんたく)”です。典型的な官僚世界の用語であるこの言葉は言わずと知れた学校法人森友学園の国有地売却問題で複数の関連する省庁や地方公共団体がそれぞれこの学校法人に便宜供与したとされる大きな理由の一つとして扱われています。一般的には「相手の真意(心)を推し量る」という意味で使われるということですが、「周囲の状況を良く考えて思いめぐらす」“慮る(おもんぱかる)”や「事情・心情を汲み取って手加減する」“斟酌(しんしゃく)”といった日本人独特と言ってもいい“行間を読む”とか“言わずもがな”の世界を表すことに通じる言葉(同類語)としても紹介されています。“忖度”というのは、終身雇用制、年功序列制のピラミッド型官僚組織の中で、役人が生き残り、昇進していくために、わきまえておかなければならない「習性」のようなものだとの説明もあり、有能な官僚であればあるほど、意識しないで、自然に上位者の意向を裁量権の許される範囲内で「忖度」することになるというふうに言われています。直接的な表現ではないが、十分にある意図を含んで発せられた言葉から推測し、理解して対応することは日本人独特の上下関係と言えばそうかもしれませんが、当然のことながら、外国人には理解しがたく、この問題の中心人物である森友学園前理事長の籠池氏の外国人記者への説明では“舞台裏の力”といった表現でも説明されています。同じように、来年4月から科目化する道徳の教科書検定においても文科省の指摘に対して出版社が“忖度”をしたと報じられました。文科省の「愛国心が足りない」との指摘に「パン屋」が「和菓子屋」に、公園の「アスレチック遊具」で遊ぶ写真が「和楽器店」の写真に差し替えたらOKが出たとか。文科省が言うところの“愛国心”とは一体何なのでしょう。何よりも「道徳の教科化」で子供たちに評価がつけられるようになるということで、個人の心にまで優劣がつけられるようになるという事実、教科書を通して国が個人に対してひとつの価値観を強要していくことも可能になるということです。私たちは少林寺拳法の修行を通して子供たちに「良いことは良い、悪いことは悪い」とはっきり言える人になろうと伝えています。私利私欲のない善悪の判断基準をもって、自分の意思を明確に表すことができる勇気、何物にも屈することのない強い意志、そして他者を思いやる優しさを身につけようと努力することの大切さ、尊さを説きます。授業の中で、子供たちが決して迷うことのないような強い心を身につけさせていかなければなりません。最近は、特に弱者を狙い撃ちするような事件が後を絶ちません。「弱きを助け強きをくじく」日本人の心意気、礼節の伝統は、「愛国心」を唱え、道徳の教科書の文語を変えるだけで醸成されていくものでは決してないことを。
愛知県における少林寺拳法の歴史は1962年に始まり、今年で55年目を迎えました。『少林寺拳法創始70周年』を前に長年にわたって県内への普及に尽力されてきた先生方が4名同時に指導現場の第一線を退かれることになりました。2016年度は7所属が廃止の決断をされました。社会環境の変化をはじめここに至る様々な要因がありますが、まずは自分たちが創始の目的に立ち返って愚直に「教え」を実践し続けることだと思っています。引き続きご協力をお願いします。
※少林寺拳法“グループ愛知”ポータルサイト構築計画に伴い以下のサイトが立上っています。
(愛知県連盟サイト:https://shorinji-aichi.jp/wp/kenrenにて紹介)
■11支部サイト掲載(スポーツ少年団・大学・実業団)
(愛知県教区サイト:https://shorinji-aichi.jp/wp/kyoukuにて紹介)
■54道院サイト掲載
再拝
2017 年 4月 4日
愛知県連盟理事長 多月 文博