2021年8月 理事長通信

合掌

 猛暑とコロナ禍の中で強行されたオリンピックが17日間の熱戦を終えて8日に閉幕し、24日から来月5日まで舞台はパラリンピックに移ります。オリンピック開催期間中、特に東京を中心とした首都圏の新規感染者数は専門家の予想をはるかに超えて増加の一途をたどり、それに呼応するように全国的にも、そしてここ愛知県においても深刻さが増しています。東京では自宅療養者が二万人を超す現状に専門家からは『知らないうちに感染し、“チョット風邪を引いたかな?”と家で休み、誰にも気づかれないうちに容態が急変する』という日常生活の例えで感染の危険度・深刻さが発せられましたがどれだけの人に真意が伝わっているのか、また『制御不能』という言葉で医療体制の現状が訴えられましたが医療現場の深刻さがどこまで伝わったのかは残念ながら期待するほどではなかったのではないかとしか思えません。刻々と悪化していく感染状況に最前線で対峙する医療現場と政府、そして国民との間にはあまりにも大きな隔たりがあり、その隔たりを埋める手立てを持ち合わせていないかのような現状に“行きつくところまで行くのか”という不安が募ります。今更ながら国全体で危機感を共有することの困難さ、真実を伝えることの難しさを感じます。発生から1年半以上が経過した今も政府から発信されるのは相変わらずのメッセージで、対策の目新しさもなく理解に必要な根拠も示されず、どこかちぐはぐで説得力がなく、加えて後出しじゃんけんのような感染拡大防止策は世論の反発を受けてコロコロ変わり、とても国全体が一体となって感染拡大防止に向けて取り組んでいるとは程遠い感覚しかありません。報じられるように「オリンピックによって国民はコロナ禍から目を転じる」と政府が本気で考えているのであればコロナ後の世界は果てしなく遠ざかるように思えます。感染爆発状態の中で手回し良くコロナ禍の出口戦略が報じられる違和感、“目線外し”と指摘されても仕方がないように思います。

広島(8月6日)・長崎(8月9日)が76回目の原爆忌を迎え、310万人の尊い命が犠牲となった先の大戦の「終戦の日」を迎えました。広島の記念式典では菅首相が挨拶原稿の一部を読み飛ばすという大失態を演じ、長崎では1分とはいえ式典に遅刻するという失礼極まりない行動もあり、“トップの声が国民に伝わらない”訳を今更ながら納得させられる出来事でした。世界に目を転じると、コロナ禍で国民に厳しい対応を求める各国のトップの発言でも我が国の首相とは対照的に国民に受け止められ評価されているのがドイツ首相メルケルさんの言葉です。コロナ対策による店舗閉鎖などの厳しい規制に市民に対して理解を求めたテレビ演説の内容です。『こうした制約は、移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利だと経験してきた私のような人間には絶対的な必要性がなければ正当化し得ない』。こう静かに話した後、「命を救うためには避けられない」と理解を求めました。メルケル首相は35歳まで旧東ドイツの独裁体制下で過ごし、“ベルリンの壁”の向こうにある「自由」の前で「耐えられない」と何度も思ったと言われています。自由の大切さを理解するメルケル首相の心からの言葉だからこそ市民は素直に受け止めたのではないでしょうか。結果的にドイツは周辺国よりも感染者数を抑え医療崩壊を避けることができたと言われています。伝わる言葉と伝わらない言葉には純粋に心から発する正直さに裏打ちされた真実が語られているかどうかによるように思います。

戦後76年、核兵器禁止条約には批准しないと明言する世界で唯一の被爆国・日本の政府。コロナ禍に乗じて「緊急事態条項」の必要性を声高に叫ぶ政府高官、2014年の集団的自衛権行使容認(閣議決定)を受けて日本は“戦争に無関係な国”とは言えなくなってきています。

私たちの修行の原点は開祖の戦争体験から生み出された平和を希求する思いです。戦争体験者が年々減少していく中で戦争の悲惨さを後世に伝えることはもちろん国の使命ですがどう伝えていくのかが問題です。コロナ禍の中、いろんなことで強権が感じられるようになってきた社会の変化に対して事実をしっかりと認識・分析・判断していくことが一人一人の役割ではないでしょうか。「良いことは良い、悪いことは悪い」と言い切れる人間になることが二度と過ちを繰り返さないことに繋がっていくのだと思います。

 さて、今月8日から31日まで「まん延防止等重点措置」が愛知県でも適用されています。各所属におかれましては借用施設の使用制限(時短等の活動自粛)で修練に支障が生じているところもあるかもしれませんが、これまで通り感染防止策と健康管理のチェックに関しては確実に実施していただくことをお願いします。保護者の皆さんとのコミュニケーションにも気配りをお願いすると共に、万一感染者や濃厚接触者が判明した時の対処の仕方についても今一度確認をお願いします。

 今年度の行事予定については変更の都度一斉送信で変更内容を発信していますが、主なところでは5・6月に実施できなかった武専を他の行事と組み替えて10・12月に実施する予定です。

まだまだ出口の見えない取り組みが続きますが、“感染しない、させない”取り組み継続へのご協力をお願いします。

 

2021.8.15

愛知県少林寺拳法連盟 理事長 多月 文博

(愛知県UNITY運営委員会委員長)




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